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私がアナログのデザイナー時代に使用していた「道具」の一部。全部名前が答えられたら相当の「ベテランデザイナー」です。

 21世紀でもなければ平成でもない昭和のある年、私はグラフィック・デザイナーの職に就きました。今を思えば隔世の感がありますが、当時を知らない方にとっては想像もできない遠い過去に思えるでしょう。確かにその通りで、パソコンといえばまだゲームやワープロ専用機のイメージが強かった頃で、事務用途以外ではまだまだ「一部のマニアのおもちゃ」という認識がまかり通っていた時代です。では、その頃のグラフィックデザインの現場では具体的にどういう作業が行われていたのでしょうか。

 まず、まず指定されたサイズのレイアウト用紙(A4などのサイズにトンボと薄く5mmピッチの方眼を印刷したもの)を用意し、それに文字(大きなチャッチコピーは写植屋さんに発注し印画紙に焼き付けてもらい、本文などは他の印刷物から文字部分をコピーしダミーとして使用)や写真(実際の写真がある場合はプリントを、ない場合は似た写真を他の印刷物からダミーとして使用)などの要素を集めた後にコピー機でそれらを拡大・縮小コピー、余白をカッターでカットしてスプレー糊をコピーの裏に振り、レイアウト用紙の上にペタペタと貼っていきます。

 そうやって切り貼りして完成させたデザイン原稿をコピー機で丸ごとコピー。すると印刷状態に比較的近いデザイン見本(カンプ)が出来上がります。しかし当時のコピー機はモノクロが主流だったので完成したカンプは当然モノクロです。これをカラーにするにはカラーペーパーやカラートーン、カラーキー、果てはマーカーや色鉛筆などを総動員して色付けしなければなりません。

 Illustarorで例えるならレイアウト用紙はアートボード、写植はテキスト打ち、写真はスキャンして配置、コピー機での拡大縮小は拡大縮小ツールといったところでしょうか。Illusoratorではただ要素を画面上に置いていくだけですが、アナログではのり付けしなければならず、色付けについてはもう・・・現在と比べるべくもなく大変手間がかかります。

 そういった状況は長い間基本的には変わりませんでした。ワープロが普及したため、今までコピーライターが書いた手書きの原稿用紙を見ながら、和文タイプライターのようにオペレーターが一つ一つ文字を印画紙に文字を焼き込んでいた写植機が、ワープロのテキストデータから直接写植機に入力できる「電算写植」に取って代わったり、デザイン作業の中心的役割を果たしていたコピー機がアナログモノクロコピー機からデジタルモノクロコピー機へ、そしてカラーコピー機へと進化したりするなど確かに利便性は向上していましたが、その歩みはとても遅かったのです。そう、あの1994年の「DTP元年」を迎えるまでは。この年、Appleから「Power Macintoshシリーズ」が発売され、全てが、本当に全部が全部変わってしまったのです。