『機動戦士ガンダム』でおなじみの安彦良和さん。絵を描く際にいちばんやってはいけない「ディテールを先に描く」をやってしまっているのにこの画力・構成力。紛れもなく(4)の人です。





 私は日常的に印刷会社やweb業者への入稿業務を行っています。その経験から「プロのイラストレーターを目指すなら最低限知っておかなかればならない知識」をコラムでご紹介したいと思います。今回はその13回目「空間認識能力の先天性について」です。

 以前この記事で「空間認識能力は先天的なものが大きく、後天的に鍛えられるものではないのではないか」という記事を書きましたが、この記事へのアクセスが多いようですし、少し説明不足にも思えたので、追加で記事を書きたいと思います。

 空間認識能力の有無についてですが、話をわかりやすくするために以下のようにカテゴライズしたいと思います。

先天的に

(1)空間認識能力が「ない」人

(2)空間認識能力が「低い」人

(3)空間認識能力が「高い」人

(4)空間認識能力が「とても高い」人


 まず、(1)の人ですが、この人はどうあがいたところで絵が上達することはありません。「絵の才能がない」「絵心がない」と自認している人はほとんどここに当てはまります。絵は諦めて他の才能を探しましょう。ひょっとしたら音楽や文章にその才があるかもしれません。

 (2)の人ですが、この人は描写力は上達するのですが、デッサン力が上達しないので、絵自体の上達速度は遅々としていてなかなかうまくなりません。大人になっても子供のような絵しか描けない人はその好例です。絵を描くのが嫌いじゃなくても、あまりにも進歩の遅さに嫌気がさして、絵をやめてしまった人などがここに当てはまります。

 (3)「絵を描き続けているとうまくなっていくのが実感できる」という人はこのタイプです。多くのイラストレーターや絵師はここに該当します。

 (4)は天才タイプの人です。なんの下書きもなしにいきなり絵をさらさら描いてしまう人です。このタイプの人は一旦描いた絵をほとんど修正をしません。修正の必要がないほど頭の中で絵が出来上がってしまっているからです。「描き始めの一歩」が(3)の人よりレベルが高いので、絵の完成までかける時間も少なくて済みますし、量産も可能になります。

 では次に一般的にいう「画力を鍛える」の「画力」とはなんなのか、ということですが、それは主に

・デッサン力(モノを立体として紙面に描く力)

・描写力(モノの質感を正確に紙面に描く力)


の二つだと思います。つまり「描く力」ということです。しかしこの画力アップのためにはもう一つ重要な要素があります。それは

・判断力(モノが正しく描かれているかどうかを見る力)

です。つまり自分の描いた絵の「どこがおかしいか」を正確に「見る力」が必要ということです。空間認識能力のある人は絵を描くことを繰り返すことによって、この「見る力」を鍛えることができます。そのコツはこちらで記事にしました。

 この観点から言えば、(1)の人がいくらデッサン力をつけようと思っても、そもそも空間認識能力がないので「見る力」がなく、自分の描いた絵の狂いを把握できないため、画力を上げることができません。(2)の人もそうで(1)の人よりも多少マシではあるものの、やはりいつまでたっても絵はうまくなりません。ただし続けていれば描写力だけは鍛えられるので、それなりに「見栄えのする絵」は描くことができるようになります。ですが空間認識能力がないので立体感や奥行き感のまるでない絵になってしまいます。「やたら描写が緻密で丁寧なのに立体感や奥行き感がない絵を描く人」はこのカテゴリーです。

 (3)の人が一般的にいう「絵心のある人」「絵の上手い人」という人たちです。デッサン力や描写力を訓練すればするほど絵が上手くなるし、見る力も鍛えられるので本人もそれを実感でき、モチベーションも保てます。

 (4)の人は(3)の人が苦労して到達する画力レベルの絵を、本人の自覚もなしにこともなげに描いてしまう人のことです。ものの数分で描いた単なる落書きでも、立体感や奥行き感、それに躍動感まであり、なおかつデッサンがまったく狂っていない絵を描く人です。

 では次に具体例で示したいと思いますが、本職のイラストレーターや絵師を挙げるとなにかと不都合がありますので、絵を描くタレントさんを例に挙げたいと思います。

 (1)のタイプは、はいだしょうこさん、(2)のタイプは工藤静香さん、(3)のタイプは八代亜紀さん、(4)のタイプはレイザーラモンHGさんです。それぞれ「タレント名+絵」で画像検索していただければ私の言っている意味を理解していただけるかと思います。レイザーラモンHGさんは学生時代はサッカー部、その後はプロレスと完全な体育会系なのに、この画力は先天的なものが非常に大きいと思ったので選ばせていただきました。

 私の個人的な感覚ですが、世の中に一番多い層は(3)だと思います。ただ(3)の人が全員絵を描くとは限らず「絵を描くという行為そのものが嫌い、苦手、もしくは興味ない」という人も数多くいます。そういう人は空間認識能力が必要な他の芸術やスポーツをする、ということになります。前の記事で「大学生になって突然絵を始める人」もこの層です。大人になっていきなり絵を描いてみてそれっぽく描けるものだから「ひょっとして俺(私)にも絵の才能が!」と勘違いするんでしょう。もともと空間認識能力があるのだから描くコツさえ分かればそれっぽくは描けるのは当たり前です。ただし始めるのが遅すぎるので、子供の頃から始めている人にはもう追いつけませんよ、という話です。もっとも、かなり例外的に(4)の人もいないわけではありません。

 悲惨なのは(2)なのに「絵を描きたい」「絵が上手くなりたい」と情熱だけは人一倍持っている人です。こういう人はいくら努力してもその努力が報われることはありません。しかも当の本人の空間認識能力が低いため、自分の絵のどこがデッサンが狂っているのか、立体感がないのかさえ判別できません。空間認識能力は持ってさえいれば年齢とともに高くなっていきます。大人になるにつれて「知らない道でもカンで行き先がわかるようになった」「地下街やビルの構造を立体的に把握できるようになった」「家具の配置や服装のコーディネートが上手くなった」といった経験がある人は、「もともと空間認識能力を持っていて、それが年齢とともに高まった」からです。逆にこれらがいつまでたっても苦手という人は「空間認識能力を持っていない、もしくは低い」と言えるでしょう。もし空間認識能力自体を鍛えられるのなら、こういった人たちを根本から矯正できるはずですが、そういった話は聞いたことがありません。ただ経験則や知恵はつくので多少マシにはなるようです。

 私が「空間認識能力は先天的なものが大きく、後天的に鍛えられるものではない」と考えるのは、多くのプロのイラストレーターやイラストレーター志望の若者と接してきた中で、こういった経験を繰り返したことが大きな理由です。鍛えらるのは空間把握能力ではなく「見る力」(モノが正しく描かれているかどうか判断する力)」だと思うからです。人物であろうと静物であろうと風景であろうと、長年絵を描いているのにもかかわらず立体感や奥行き感がまったくない絵を描く人は、「先天的に空間認識能力がない、もしくは低いため、いくら絵を描いてもそれのどこが狂っているかを見る力が身に付かないから」です。でも画歴が長ければ描写力はありますから、それなりに上手く見えてしまうし、本人も上手いと思っているので、それを指摘すると怒り出します。ただ、中には「わざと立体感や奥行き感を排した絵」を描いている人もいるので、その判断は正確にすべきでしょう。

 以上ですが、これらの定義や考察は学術的になんら裏付けのあるものではありません。単なる私個人の経験や観察から導き出された私見でしかないことをご了承ください。


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