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当時は1万円弱もしたエアブラシの「ガン」(並行輸入品 エアブラシ HD-130 ダブルアクション重力式 エアーブラシキット) アナログ時代はとにかく何かにつけてお金がかかった。




 イラストレーターの過剰供給を招いた元凶、それは言うまでもなく制作環境のデジタル化の他なりません。現在プロ・アマ問わずイラストレーターや絵師と名乗る方々は、いまの制作環境を「当たり前」のものとして享受しています。ですので、デジタル以降の説明はいたしません。では、デジタル以前はどうだったのか?それを以下にご紹介いたしますので、現在の環境と比較してみてください。

 当時もイラストの発注はまず打ち合わせからでした。でも、当時はメールなどありませんから、直接クライアントに出向くしかありません。そこでクライアントが要望しているシチュエーション、タッチ、構成要素などを打ち合わせます。必要ならその場でスケッチします。大体のコンセンサスを得た後、いよいよ作業開始です。

 例えば、それはリアル系のイラストだとしましょう。まずは資料探しです。現在のようにネットの画像検索で一発!というわけにはいきません。図書館や書店を回って描きたいものの形や色がわかる、なるべく正確で詳細な資料を集めます。1日かけて全部集まればいいですが現実はそうはいかず、描いている途中にも新たに資料が必要になって探しに出かける、なんてしょっちゅうです。

 次はその資料を元に下描きをします。もちろんこの段階では鉛筆でもペンでも構いません。下書きが完成したらそれをファックス。受け取ったデザイナーはそれをレイアウトに貼り込んで(文字通り切って、糊を付けて貼り付ける)クライアントに提出し、確認。OKが出ればいよいよ本チャン(本番)です。

 OKの下描きをトレーシングペーパーにトレースし、それをイラストボードに転写、全体をマスキングシートで覆い、塗りたい箇所をカッターナイフでくり抜きます。そこにエアブラシで色を入れていくのですが、エアブラシは色を変えるたびに中を洗浄しなければなりません。当然そこら中絵の具だらけになります。空気と混ぜて絵の具をスプレーするエアブラシの最中、絵の具が体内に入るのを防ぐためにマスクをしますが、中にはアレルギーなのかゴーグルをする人もいました。

 一箇所塗り終わると再びマスキング、塗りたい箇所をカッターでくりぬいてエアブラシ・・・その繰り返しです。一通り画面を塗り終わると今度はディテールの描写です。エアブラシを筆に持ち替えて、はみ出しなどの修正をしつつ、細部を塗っていきます。

 やっと完成!と思ってもクライアントチェックで修正が入る場合があります。修正箇所の紙をカッター(カミソリを使う人もいた)薄く剥いで、そこに新たに書き直した修正イラストを貼り込みます。不自然なつなぎ目も修正しなければなりません。

 OKが出れば納品です。あとは印刷の上がりを待つだけですが、やはり思い通りの色が出ていない場合が多いので色校正に赤(修正指示)を入れる作業があります。この作業は印刷会社に出向いてする場合もありました。

 これでその仕事は終了ですが、イラストレーターはエアブラシだけでなく、他の画材も使いこなせなければなりません。アクリル絵具、水彩絵具、パステル、カラーインク。コピックが登場した当初は、もっぱらカラーカンプ用(イラストの下絵に大まかな色付けをした見本)に使用されていました。

 これがアナログ時代のイラストレーターの実態です。いったい画材や機材だけで幾らかかるのでしょう?エアブラシ(ガン)を口径違いで数種類×数本、コンプレッサー、アクリル絵具やカラーインク、コピック(けっこう高価)などの絵具、カラーペンは全色必要です。イラストボードにトレーシングペーパー、マスキングシート、ぐちゃぐちゃに汚れる机周り、タバコの煙とインスタントコーヒー(これは直接関係ないけど)。こんな仕事、誰が好んでなりたがるでしょう?これがアナログ時代の「イラストレーター」の現実です。でもこれが大きな参入障壁となってプロとアマの間に立ちはだかっていたため、イラストレーターの商売は成り立っていました。

 この壁はデジタル化という津波によって「あっ」という間に崩れてしまいました。プロは初めデジタルに懐疑的で、プロのデジタル化は遅々として進みませんでした。その間隙を縫って埋もれていた数々の才能がデジタルを武器にイラストレーターとして次々とプロの世界に侵入。中途半端な立場にいた多くのプロのほとんどが駆逐されてしまいました。現在、私の周りでアナログ時代に付き合いのあったイラストレーターは一人も生き残っていません。

 しかし彼らでさえ安泰ではありません。次々と若い才能がデジタルをあたりまえとして参入してきています。そのデジタルも年々進歩し、参入障壁はいまだに下がり続けています。(ペンタブがあたりまえの時代から液タブが当たりまえの時代になると予見した記事はこちらで書きました)イラストレーターを本業としない小遣い稼ぎのアマチュアや絵心のある主婦まで、その「下がり続ける参入障壁」の恩恵を受けて数多くのイラスト描きが参戦しています。

 そればかりか恩恵であったはずのデジタル化も、発注側に「制作コストがほとんどかからない」「イラストレーターの供給過多」が知れ渡ると、ギャラの値崩れという「罪」の側面ももたらしました。特に萌え絵業界における値崩れは「職業として成り立たない(つまりそれだけでは食べていけない)」レベルまで暴落しています。

 これが現在のイラストレーターを取り巻く実態です。少ないパイを奪い合い、そのパイも大して美味しくないというこの状況で、「デジタル絵師はプロ・イラストレーターの夢を見るか?」どうかは各々が冷静に判断する必要がありそうです。


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