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プライドは失っても仕事は来るけど、信頼は失ったら仕事は来ない。ならば、どちらを優先すべきかは自明ですね。(写真提供:pixabay




 私は日常的に印刷会社やweb業者への入稿業務を行っています。その経験から「プロのイラストレーターを目指すなら最低限知っておかなかればならない知識」をコラムでご紹介したいと思います。今回はその15回目「プライドを持つべき場所について」です。

 以前、こういったことがありました

 クライアントよりイラストの作成を依頼され、ある女性イラストレーターに仕事を発注しました。彼女とはそんなにしょっちゅうではありませんが、たまに仕事をお願いしている方で、その時点でもう5年くらいのお付き合いがあったと思います。

 いつもの通り、私が描いた大ラフ(棒人形にシチュエーションなどを言葉で指示した手描きのスケッチ)をメールで送り、クライアントチェックしたいのでまずは下描きを、とお願いしました。ここまではいつもの通りのいつものやり方で、何の問題もなかったのですが、彼女は何を思ったのか締め切りの前日にいきなり本チャン(色付けまで終わった仕上がりのイラスト)をメールで送ってきました。しかもそれは明らかに手抜きが見える代物で、どうやら忙しかったか乗り気じゃなかったかで、とりあえず「やっつけ」でとっとと仕事を終わらせてしまいたいという心理が見え見えなものでした。私は内心「まずい」と思いましたが締め切りもあるのでそれをデザインに貼り込み、クライアントに提示しました。

 案の定「思っていたのと違う」「画が古臭くダサい」とクライアントからNGをくらってしまいました。私はクライアントの辛辣な言葉を柔らかく言い直し、そのイラストレーターに描き直しの指示のメールをしました。すると彼女から届いたのは「私はあなたの指示通りの画を描いた」「もらった資料や見本の通りにも描いた」「それなのに描き直しとは納得できない」「もっと明確な指示がないと描きようがない」という、怒りに満ちたメールでした。

 その「明確な指示」をすり合わせるための下描きでのチェックだったのは言うまでもありません。それを無視して、いきなり本チャンを描いてきた彼女のこの言い草に私は怒りを覚えたのですが、それと同時にある点にも気づきました。こういうヒステリックに反論にもなっていない反論をし、自分の主張を並べ立てる場合、実は自分の非に気づいているのです。つまり「自分の非に気づいているからこそ、それを相手に悟られないようにするためにヒステリックに反論する」のです。

 私はとりあえず「わかりました。クライアントに更なる資料の提示をお願いしてみます」(もちろんそんなことはしませんが)と彼女に返事をし、その間に他のイラストレーターを探すことにしました。それからしばらくしてクライアントから「イラストはこちらで手配することになったのでもう必要ない」との連絡があり、私は内心胸を撫で下ろしました。たいていの場合、一度ケチがつくとなかなかOKがもらえず難航するのがオチだからです。

 私は彼女に「申し訳ないが仕事自体がボツってしまった(これは嘘)。制作費をお支払いするので、請求書を送って欲しい」とのメールをしました。もちろんこの支払いは自腹を切るしかありませんが、これは発注側の責任なので止むを得ません。すると彼女から「こちらこそ力及ばずで申し訳ございません。今後とも何卒宜しくお願いします」と返信があり、数日後に請求書が送られてきました。

 当然のことながら、私が彼女に仕事を発注することはもう二度とありません。彼女にはトータルで50万程度のお支払いはしたかと思います。5年で50万ですからたいした金額ではありませんが、彼女はこうして仕事の受注先の一つを失うことになりました。付き合いが5年だろうが10年だろうが、このように仕事を失うのは一瞬です。「信頼」とはこんなに脆いものなのです。彼女は大きなミスを犯しました。ではそれは一体何が原因だったのでしょうか?

 私は「プライドの持つ場所」の問題だったと思います。イラストレーターにしろ、デザイナーにしろ、そこには「作家根性」という「プライド」を持っています。それはそれで素晴らしいことなのですが、その「持つべき場所」によってとんでもない事態を引き起こしてしまいます。プライドは自分の過去(実績)に対して持つべきもので、未来(新しい仕事)に対して持つべきではないのです。そうしないとその仕事に対する「謙虚さ」や「真摯さ」が失われてしまうからです。

「プライドは成し遂げた仕事に対して持つべき」

「仕事を成し遂げる前のプライドは百害あって一利なし」


 私が上記のような考えを持つようになったのは、実は過去に私も彼女と同じような態度をとった経験があるからです。それにこれは「作家性」で仕事をするすべての人に共通する課題だと思います。自戒を込めて、そして未来のイラストレーターたちが同じ過ちを犯さないためにも、ここで記事にしておきたいと思います。


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