3001b2ba
イラスト制作のすべてをアナログで作業していたあの時代、一度方向性が狂うとそれを修正するのは大変だった。この場合「イラストレーターを変える」のが一番効果的であることが多い。(写真提供:pixabay




 私は日常的に印刷会社やweb業者への入稿業務を行っています。その経験から「プロのイラストレーターを目指すなら最低限知っておかなかればならない知識」をコラムでご紹介したいと思います。今回はその16回目「「見えていない人」に「見えていないもの」を伝えることは不可能であるという事実」です。

 これはまだイラストがアナログで描かれていた時代の話です。

 私は現在フリーランスですが、デザイン事務所に勤めていた時代ももちろんありました。そこでの私の立場はチーフデザイナー。案件のデザイン作業はもちろん、スタッフのとりまとめからスケジュール管理、予算管理までを担当する役職です。その会社に新人でイラストレーターのK君が入社してきました。K君は新人にしては画力が高く、主に機械ものや乗り物のイラストを得意としていました。本人もそれを自覚していて、自信満々に仕事に取り組んでいました。

 そんなある日、某住宅メーカーの展示場の仕事が舞い込みました。それはまだ開発段階で現地は更地でしたが、売り込みをするために展示場のイメージイラストを作成、それをメインビジュアルにパンフレットを作成することになりました。さっそくデザイン担当は私、イラスト担当はK君で作業をスタートさせたのですが、どうもK君のイラストの仕上がりが良くありません。具体的に言えば、背景のパースと家のパースが微妙に合っていないのです。さらに言えば、そこに散りばめた人物や車や植栽の位置関係も微妙に狂っています。そしてその人物のデッサンも甘いものでした。

 その時点で入社3年目くらいだったK君は、あいかわらず自信満々で画を仕上げてきます。私は何度かパースやデッサン狂いを指摘したのですが、彼は「どこも狂っていない」と全く取り合いません。あげくに「岩沙さんの見方がおかしいのではないか」と言い放つ始末です。それでもパンフレットの仕上がりを危惧した私はおだてたりなだめたりしながら彼に修正をさせました。しかしそれはやはり求められているクオリティには届いていないと一目でわかる代物でした。

 そのパンフレットは一応の完成を見て、無事納品も終わりました。しかし私の内心は暗澹たるものでした。案の定クライアントからクレームが入り、間に立っていた広告代理店のディレクターNさんから呼び出しを受けました。そこでのNさんとの会話はこんな感じでした。

Nさん「なんで呼び出されたかわかるよね?」

私「はい・・・・」

Nさん「このイラストはK君が描いたの?」

私「そうです」

Nさん「K君にしてはクオリティ低いけど、ちゃんとディレクションした?」

私「したんですが、上手くコントロールできませんでした、すいません」

Nさん「彼もまだ若いからね・・・。でもそれは関係ないよね」「どこかでバックアップの手段を確保しておくべきだったね。それは考えなかった?」

私「はい・・・」

Nさん「こういう場合、複数のイラストレータを立てることも考えなきゃね。社内にイラストレーターがいる場合は人間関係もあるから仕事が進め辛くなるけど、そこは上手くやらないと」

私「はい・・・」

 ちょっとラッキーだったのは、NさんもK君を知っていて、Nさん自身も「K君がイラストを担当すればいい」と発言していたことです。この時は幸いに、この説諭だけで終わりました(事態を収めてくれたNさんに感謝!)が、私はこの時イラストの仕上がりのクオリティをコントロールする難しさを身にしみて痛感しました。そしてこの経験は決定的な考えを私にもたらしました。それは

「デッサンやパースの狂いが見えていない人に、その狂いを伝えることは不可能である」

ということです。これは空間認識能力の話にも関連してきますので、ひょっとしたらじっくりと時間をかけてやればどうにかなったかもしれません。しかし仕事のスケジュールはそれを待ってはくれません。このことがあって以降、私はイラストの仕上がりが少しでも求めているクオリティに達しそうにないと判断した場合、無慈悲に、冷酷にイラストレーターを入れ替えることにしています。なぜなら「イラスト仕上がりのクオリティはデザインのクオリティに直結する」からです。私がいくらデザインを頑張ったところで、イラストの仕上がりが悪ければ、それが全てを破壊します。私のデザインを生かすも殺すもイラスト次第だからです。

 このNさんとの話し合いの後、K君に「仕事の評価が低かった」ことを伝えました。しかし事態がここに至ってもK君は自分のイラストのどこが悪いのか理解していないようでした。仕方ないので私はK君に「この刷り取り(刷り上がり)を渡しておくから、半年後か1年後に見直してみて。そうしたら私の言っている意味がわかるから」と言うのが精一杯でした。

 その後K君がその刷り取りを見て何を感じたのかはわかりません。この話は二人の間ではタブーになってしまったからです。一応K君の弁護のために記しておきますが、決してK君は傲慢で自信過剰なタイプではなく、非常に素直で性格の良い子でした(それゆえにこの反発には驚かされたのですが)。私はその会社を退社し、その後しばらくしてK君も退社したので現在は接点はありません。風の噂はいくつか(イラストはもう描いていないらしい)聞いていますが、私がK君に連絡を取ることは今後もないでしょうし、K君から私に連絡が来ることもないでしょう。でも今日もどこかで、同じ業界の違う場所で頑張ってくれていることを心から望んでいます。


【ブログランキング参加中!】 にほんブログ村 イラストブログ 萌え絵(ノンアダルト)へ  




〈PR〉
〈PR〉

〈PR〉
〈PR〉