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 高橋真琴といえば「少女の瞳に初めて星を描いた作家」と言われている、少女画で有名なイラストレーターです。ルーツを辿れば中原淳一や蕗谷虹児や松本かつぢ、さらに遡って竹久夢二まで辿れるのではないでしょうか。その高橋真琴氏の展覧会になぜ足を向けたのかと言いますと、氏の原画が展示されるということだったので、氏の筆致をつぶさに観察したいと思ったからです。

 会場では制作過程を記録したDVDが流されていて、それで確認したところ、氏の独特の柔らかく繊細な輪郭線は、セピアの絵の具で下書きを薄くなぞってから下書きを消し、その上をセピアの色鉛筆で描くのだそうです。そうすると下に描いたセピアの絵の具と色鉛筆が馴染んで、柔らい表現になるんだとか。しかも同じセピアの色鉛筆でも描く場所(髪の毛とか花とか輪郭)によってメーカーで使い分けるというこだわりも。

 彩色はの方法は水彩絵の具をパレットで混ぜず、チューブ出しの色のまま薄く塗り重ねていく手法。これは発色を良くするために使われる方法です。紙はケント紙で、一番難しいのは下書きを消すための消しゴムかけを紙面全体に均等に行うこと。そうしないと絵の具の乗りにムラができてしまうからだそうです。

 レイヤーがあったりやり直しができたりするデジタルとは比べ物にならない「一発勝負」のアナログイラストの世界。昔のイラストレーターはこれが当たり前で、それぞれがそれぞれ独自のノウハウ(それを当時のイラストレーターは「企業秘密」と呼んでいた)を持っていました。高橋氏はもう競合と言えるイラストレーターがいないためか、そういった企業秘密を惜しげもなく披露してくれています。それは「一人でも多くアナログで絵を楽しんで欲しい」という氏の願いでもあるんでしょう。その氏と同じく、絵を始めるならいきなりデジタルではなくまずアナログであるべきたと、この展覧会を観て改めて強く感じました。