person-writing-illustration-in-spiral-notebook-1767016
photo:pexels

 ・・・はい、答えは「No」です。さて、詳細を語る前にご注意を。ここでお話しする内容は「数十年も広告業界で生きてきたプロのグラフィックデザイナーが、イラストを〈発注する側〉として見聞きした現実」であることをあらかじめお断りしておきます。私自身もイラストを描きますが、それはあくまで趣味の範疇です。「自分は大して画力がないくせに」云々の批判は的外れです。あくまでビジネスとして「プロのグラフィックデザイナーがイラストレーターにイラストを発注する側としての意見」としてご傾聴ください。

 例えば、自分で家を建ててしまう人が世の中には一定数いらっしゃいます。完成した家を見ると、プロも裸足で逃げ出しそうな完成度を誇っていたりしています。そんなすごい人に、住宅会社や建設会社から住宅建設のオファーが殺到するかといえばそんなことはありません。理由は「プロの世界ではその行為によって利益を上げなければならないという絶対的な命題があるから」です。

 自分で家を建てる人は自分の理想を追い求め、利益など度外視しています。建築期間も長期にわたり、材料も品質や好みを最優先にします。だからこそ高い完成度の家が出来上がるのですが、商売としてこんな方法論が成り立つのかといえばそんなことはあり得ません。利益を出すためには「コスト意識」が必要になります。かかった時間、材料費、人件費。それらを考慮しながらクオリティの高い、クライアントに満足してもらえるものを作り出さなければなりません。もちろんそのためには技術(画力)も重要な要素ですが、センス(感覚)、作業スピード、専門知識、コミュニケーション能力、的確なアウトプット能力、柔軟な対応力、自己管理能力などが問われます。かなり乱暴な言い方をしてしまえば、技術(画力)があまり高くなくてもこれら「プロフェッショナルとしてのスキル」があればプロになれます。むしろ業界ではこちらの方が重要視されています(かと言って全然画力はなくてもいい、という話ではないので念のため)。

 では「プロフェッショナルとしてのスキル」を得るためにはどうすれば良いか?ということですが、これは「プロの世界に飛び込む」以外に方法はありません。アマチュアのイラストレーターにありがちな勘違いとして、「自分の得意なジャンルやシチュエーションなら高い能力を発揮するが、それを外れると途端にクオリティが落ちる」というもがあります。例えば、ファンタジー系なら素晴らしい画を描けるけど、リアル系では全然ダメ、というパターンです。このようにアマチュアは自分の得意な世界で安穏としているので、プロの世界ではたちまち馬脚を現し、通用しなくなるのです。ですので、こういった応用力(ある意味、画力より難しい)を鍛えるには、やはりプロの世界に飛び込むしかありません。

 もちろん「プロフェッショナルとしてのスキル」の重要な要素の一つに、「画力」が存在するのは間違いありません。前述したスキルも画力があればやすやすと克服できる要素(例えば作業スピードや的確なアウトプット能力など)が存在しています。ですが、プロにとって画力が「絶対」ではありません。「画力はプロになるための重要な要素の一つではあるが、絶対的な指針ではない」というのが、イラストレーターを取り巻く現実を一番的確に表現していると思います。ですので「プロのくせに画力云々」と批判するのはナンセンスだと思います。たとえ画力があまり高くなくてもプロとして成功しているのなら、その方は画力の低さを補えるほどの「別の魅力」を持っているからです。そうでないと「プロの世界で業務を発注される」ということはないはずです。

 ついでに言えば、私が思うにプロのイラストレーターに絶対必要不可欠な要素は、ひとつだけあると思います。それは「絵を描くことが何よりも好き」ということです。プロの世界ではとても理不尽な目(朝令暮改のリテイク要求など)に日常的に遭遇します。しかし、いったん自分がそのイラストを担当した以上、逃げ出すことは絶対に許されません(逃げ出してしまえば次の発注はありません)。そんな時、心の支えになるのは同僚や友人の励ましなどではなく「自分は絵を描くことが何よりも好きなんだ」という「自覚」です。それさえあれば画力や専門スキルなど後からついてきます。今現在、画力に劣るというコンプレックスがあるとしても、堂々と「自分は絵を描くことが何よりも、寝食を忘れるほど絶対的に好きなんだ!」と思えるのなら、迷うことなくプロのイラストレーターを目指すべきだと、私は思います。