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 私はデジタル化以前、アナログ(コピー機で複写して切ったり貼ったり)の時代(1980年代後半)からのデザイナーです。Apple社のPC、Macintoshによる広告・デザイン業界の革命は1990年代後半ですので、約10年程度はアナログ時代を経験したことになります。そこで今回はデジタル革命以前に存在した職種(その道のプロフェッショナルがいて、専門職として成立していた)と、それがその後どうなったかを解説したいと思います。ただし、厳密には「完全にゼロ」になったわけではなく、存在している業務もありますが、それはよほど特別なニーズで存在しているだけですので、現実にはワークフローからは除外されています。ですので「消えた」と判断させていただきました。


・写植(電算写植)

 文字を印画紙に焼き付ける業務です。タイプライターの高機能型と理解すれば良いかと思います。電算写植は文字入力を手入力ではなくテキストデータ(フロッピーディスクに入ったワープロのテキストデータ)で入力するタイプ。1990年代前半はこれが主流でした。現在はIllustrator、InDesingに置き換わりました。

・版下

 文字は印画紙の状態で渡されますので、版下に張り込んで印刷の「版」にするには版下作業が必要になります。その作業を「版下(制作)」、その作業をする人を「版下屋」と読んでいました。現在はIllustrator、InDesingに置き換わりました。

・エアブラシ修正

 例えば車のカタログ写真を撮影しても、写り込みなど絶対に修正作業が必要になります。また、商品を美しく見せるためにハイライトを加えたり、美味しそうに見せるために湯気を描き加えたりしていました。その作業はプリントされた写真にエアブラシで直接描くというものです。非常に高度なエアブラシの技術が必要でしたが、現在はPhotoshopに置き換わり、簡単なものならデザイナーが、高度なものなら専門職のレタッチャーが担当するようになりました。

・カンプライター

 カンプとは、時間もお金もかかる写真撮影前にクライアントに仕上がりのイメージを把握してもらうため、マーカーなどで描いたダミーのカラースケッチのことです。イラストレーターがかねる場合が多く、多くの場合は駆け出しのイラストレーターの登竜門的な仕事でした。現在はPhotoshopでデザイナーが画像合成し、撮影用ダミー画像を作ります。

 次に、消えてはいないが、デザイナーが兼業するようになった職種です。

・アートディレクター

 アナログ時代の仕事の関連性は、クライアント>営業=プランナー>アートディレクター=デザイナー=コピーライター=カメラマン=イラストレーターとなります。つまり、クライアントと直に対峙するのは営業とプランナー(企画制作者、つまり総監督)で、その下にアートディレクター(現場監督)が各スタッフ(デザイナー、コピーライター、カメラマン、イラストレーター)をとりまとめるという形でした。つまりアートディレクターは実作業をしなくても各スタッフに指示をすれば良かったのです。ところがデジタル化による省力化が進んでこの区別は曖昧になり、専門性が高いカメラマンとイラストレーター以外は兼任することが多くなりました。この中でもアートディレクターの立ち位置が一番中途半端だったため、だんだんデザイナーが兼任するようになりました。もちろん肩書きとしては存在していますが、「アートディレクター」と肩書きにあっても、実作業的にはデザイナーやコピーライターである場合が多いです。

・イラストレーター

 アナログ時代にでもデザイナーとイラストレーターを兼ねている人は多くいましたが、デジタル時代になると扱いにくい絵の具を扱わなくていいことから、絵心のあるデザイナーがカット程度のイラストを描くことは珍しくなくなりました。私自身も(カット)イラストを描いたことは何度もあり、実際に広告に使用されています。

・カメラマン

 専門的な撮影(モデル撮影や商品撮影)などはプロにおまかせですが、ちょっとした説明画像用の写真ならデザイナーがデジカメで撮影することは珍しくありません。これもデジカメの普及と高性能化のおかげでと言えるでしょう。

・コピーライター

 デザイナーがコピー(文章)を書くというのはアナログ時代から日常的にあったことです。重要度度の高いコピー(例えばそのキャンペーンの成否を決めるようなキャッチコピー)はプランナーやディレクター、専門のコピーライターが制作しますが、重要度の低いコピーはデザイナーや代理店の担当者や営業、クライアントの担当者が書くことがよくあります。PCの普及で原稿用紙に手書きで書かなくて済む(修正や練り直しがラク)ということが、こういった「文章を誰もが手軽に書く」という状況を生んでいるのは間違いないでしょう。

・営業(打ち合わせなど簡単なもの)

 アナログ時代のデザイナーは机に張り付いて作業しなければならず、その作業量も膨大でした。ですので、打ち合わせなどはそれ専用のスタッフ、つまり営業が担当していたのですが、デジタル時代の到来で大幅に省力化が進むと、デザイナーが直接クライアントと打ち合わせることが多くなりました。ノートPCのスペックでデザイン・入稿作業ができるようになったのも、この傾向に拍車をかけていると思います。ただ、それは案件の規模の大きさにもよるので、営業は営業として独立して存在する場合もまだ多くあります。


 以上ですが、結論として1990年台後半のデジタル革命以降、「写植(電算写植)」「版下」「エアブラシ修正」「カンプライター」は消えた職種、「アートディレクター」「イラストレーター」「カメラマン」「コピーライター」「営業(打ち合わせ)」がデザイナーが兼業できる職種に変化した、ということになります。つまりこれらを専業で仕事をされていた方々が「無職になった」んですね。現に専業として仕事をしていたアートディレクターで、デジタル化に対応できなかった(要するにPCを使えなかった)ばかりにリストラされてしまった人を何人か知っています。それについては機会があれば今後、身バレしない程度で記事にしたいと思います。

 つまるところ、テクノロジーが進めば省力化が進みます。省力化とはすなわち「省人化」です。余剰人員は良くて配置転換、悪ければリストラです。かつて女性の花形職業であり、専門職であった銀行の窓口業務が、ATMやネットの普及で大幅に縮小されたことなど、そんな事例はあまたあります。私自身の実感ですが、私一人でアナログ時代の10人分×10倍のスピードで仕事をするようになりました。では、報酬も10×10倍なのかといえばそんなことはないのですが。

 現在、憧れの職業としてイラストレーターを挙げる人は数多くいますが、現実を鑑みると専業イラストレーターとして生活し、生涯を全うできる人はもうすでにゼロになっていると思います。つまり「兼業が当たり前になる」ということです。現在でも人気イラストレーターは漫画家やアニメーターを兼ねている方が多いですし、ソーシャルゲームやラノベのイラストレーターも10年周期で新しい人と入れ替わっています。20歳でイラストレーターになったとしても、年金がもらえる65歳まで第一線で「専業で」活躍できる・・・なんて時代は、デジタル化で参入障壁が下がった現在、もう来ないと思っておいた方がいいでしょう。つまり「いつかは食いっぱぐれてしまう」ということです。女性なら結婚・出産でフェードアウトできますが、男性なら人生設計を狂わされかねない死活問題です。

 ですので、イラストレーターを目指すなら兼業として目指すか、他に食べていける手段を持っておくかなどの「自己セーフティーネット」を用意しておくことをおすすめいたします。