JIN_ILLUST
こんな感じで描いています(not仕事)。

 デザイナーにとってイラレ(Adobe Illustrator)は自分の手の延長のように操るツールです。ですが、あまりイラレで「萌え絵(美少女絵)」を描こうと思う人はいないでしょう。デザインパーツとしてのイラスト(いわゆるカットイラスト)を描くなら、イラレは非常に有効なツールですが、シズル感溢れる、いわゆる「萌え絵(美少女絵)」を描くのには、パス(ベジエ曲線)で絵を描くというアプリケーションの特性を考えれば向いていないと思います。そうは言っても私にとってイラレは一番馴染みの深い、使い慣れたツールですし、「萌え絵を描きたいな」と思って最初に描いたのもイラレを使ってでした(正確にはペンタブを全く使いこなせなくて、仕方なくイラレを使ってマウスで描いた)。それはこのブログを始める直前、2016年3月のことでした。

 それから5年が過ぎ、現在も仕事の合間を使ってチマチマと萌え絵を描き続けています。最近やっと作品絵が50点を超えたところですが、もちろんそれ以上にボツになった非公開作品があります。それだけイラレで萌え絵を描いていると、なんとなくそのメリットとデメリットが理解できるようになってきました。それをまとめると以下のようになります。

【メリット】

・拡大・縮小・変形・微調整など、描いた後の再編集が容易で画像の劣化もない

・解像度に依存しないので、描いた後でも自由に解像度を設定できる

・パーツの流用が簡単なので、描けば描くほどパーツがたまる

・細かい部分の描き込みがしやすい

【デメリット】

・パスを介して間接的にピクセルに描画するので、手描き感が出ない

・描画精度が高いので、デッサンやパースの狂いがバレやすい

・柔らかいもの(動物の毛など)、不定形なもの(水や炎)の描画が苦手

・オブジェクトを組み合わせて描くので、画が変面的になりやすい

 簡単にまとめると「イラレはパスを使って間接的にピクセルを描画するので、修正や微調整が画像の劣化なく無限に繰り返すことができ、描くプロセスの自由度が高いが、そのパスを使うために画が硬く、平面的になってしまい手描き感が出ない」ということです。

 私はその対策として、

・画が硬くなる→強い色を置いたり輪郭線をなるべく描かないようにして、硬さを軽減させる

・画が平面的になる→アンカーポイントを極力減らし、滑らかで奥行きのあるベジエ曲線を目指す

という方法を採っています。ただ、「手描き感」だけはブラシツールをいくら使ったところで「ごまかし」「気休め」程度にしかならないので使っていません。中にはペンタブ(最近ではiPad版イラレ+Apple Pencil)を使ってフリーハンドで描く方もいらっしゃるようですが、それだと余計なアンカーポイントが自動で生成されてしまい、パスの再編集がかなり大変なことになります。再編集をしないのであれば、わざわざイラレを使う必要はないので、PhotoshopやCLIP STUDIO PAINT(クリスタ)などのペイント系アプリケーションを使った方がよっぽどストレスがないでしょう。

 私は画力不足からパスの再編集前提で絵を描いています。ですので、イラレは有効なツールと言えるのですが、「画が硬く、平面的になってしまい手描き感が出ない」部分に関しては、「何か他にいい方法があるのではないか?」と、研究をしながら描いているというのが現在の状況ですね。

 さて、よく言われる「萌え絵には個性がない」という批判についてですが、確かにそういう側面はあるのかな?と思います。萌え絵に慣れている私でさえ、画だけでは絵師さんの判別がつかない、と感じることは何度もあります。ただ、絵柄には「流行」というものがあるので、絵師さんは自分のファンを掴むためにもそれを意識せざるを得ない、という現実があることは知っておくべきです。特に複数の絵師さんが参加しているソーシャルゲームのキャラ画はその顕著な例でしょう。また「萌え」の範囲を逸脱した「個性」は評価されないという現実もあります。もちろんその「個性」が刺さるという人もいるかと思いますが、それは「萌え絵」ではなく「イラスト(レーション)」と呼ぶべきだと思います。

 こういったことも含め、「萌え絵には個性がない」などと批判するヒマがあるのなら、一度自分で「萌え絵」を描いてみることを推奨したいと思います。結局、人間って「その立場」になってみないと理解できないものなのです。「萌え」の感覚や技術は一朝一夕には身につきません。「目を大きく描きゃいい」「ツインテロリ巨乳にしとけばとりあえず萌える」なんてことは絶対ありません。「萌え」の世界は微妙で繊細で奥深いのです。その事実を知らない人ほど「萌え絵には個性がない」などと安易に批判する傾向があるように思います。ですので、まずは自分で描いてみて、その難しさを身をもって知ってから、批判なり批評なりしてほしいと私は思います。

 余談ですがこのブログ、当初は「イラレで萌え絵を描く」をテーマにし、様々な試行錯誤の過程を掲載していました。ところがある記事が炎上(ちょっとアレなお方に目をつけられてしまった)してしまったため、自作イラストの掲載やその制作過程について語りづらくなってしまいました。まあ、炎上自体はそんなに気にはしていなかったのですが、本格的にイラスト制作を再開してまだ数年でしかない未熟な私に「お前が言うな」的な批判もあったので(そもそも私はイラストレーターではなくイラスト発注側のデザイナーで、その立場から記事を書いたつもりでした)、イラスト用のペンネームを別個設定、独立させ、このブログには自作イラストについては載せないことにしました。ですが今回「イラレで萌え絵を描く」という課題に対し、現時点での自分なりの「答え」を見出せたので、記事にさせていただいたという経緯です。今後も引き続きイラレで萌え絵を描いていくつもりですが、また何か大きな「気づき」があれば、その時に再び記事にしたいと思っています。