CultQ_macintosh
このフォント、懐かしいですね。

 ネットがTVに取って代わる直前の1990年代、ゴールデンタイムこそ大衆向けの陳腐なドラマが高視聴率を稼いでいましたが、それに満足できない気骨あふれるTVマンは深夜帯に「振り切った」番組を制作し、カルト的な人気を博していました。この『カルトQ』もそんな番組で、素人参加型クイズ番組という使い古されたフォーマットに、カルトマニア(今でいう「おたく」)を参加させ、そのあまりにもマニアックすぎる内容から、一般視聴者を完全に置き去りにしていたにもかかわらず、深夜帯ではそこそこの人気と知名度を獲得していました。司会者はうじきつよしと中村江里子。その『カルトQ』の「Macintosh」回がYouTubeにありましたので、懐かしく視聴させていただきました。

 この回のオンエアは1992年3月3日。もちろんMacもAppleも一般に知られてなく、スティーブ・ジョブズに至ってはAppleを追放されていた時期になります。なのにさも常識かのように出題されるのですから、この頃からジョブズの存在感・カリスマ性は際立っていたんですね。私はこの頃はまだMacユーザーではなく、Macとの初対面は1994年春、ユーザーになったのは同じ年の夏。OSは漢字Talk7からです。まあでも、この番組でその直前の漢字Talk6が出題されていますし、ほぼリアルタイムと言って差し支えないと思います。Hyper CardもAftrer Darkも触っていましたからね。

 Macがなぜデザイン・印刷業界に受け入れられたか。それは当時、クイズ問題にもなってる「WYS I WYG(ウィズウィグ)」(モニターで表示されているレイアウトをそのままプリントアウトできる)を実現させていたからです。今ではモニタ表示とプリントアウトが一致しているのは常識ですが、当時ビジネス用途で普及が始まっていたWindowsではそれは不可能でした(できなくはなかったが制約が多かった)。Macはデザイナーなど文系ユーザーにも受け入られやすいグラフィック・ユーザー・インターフェイスを採用していたこともあり、グラフィックに強い=Macという図式が出来上がったのです。決して「筐体デザインがカッコいいから」とか「スタバでドヤ顏ができるから」などという理由ではありません。というか、そんなこと言う人は、こうした「現実的・実務的理由があったこと知らないという無知を晒している」ということに気づいていないんでしょうね。哀れな人たちです。

 WindowsとPCの普及が始まるのはWindows95が発売された1995〜1996年からですが、それ以降、会社のデスクにPCが鎮座するのは常識になりました。ですが、あいかわらずプロのグラフィックの世界ではMacはデファクト・スタンダードとして君臨しています(アマチュアレベルではWindowsも普及している)。電通も、博報堂も、大日本印刷も、凸版印刷も、Windowsのデータは受け付けてくれません。なぜなら業界のワークフローはMacで統一されているからです。それが「Macユーザー=クリエーター」
のイメージで語られるゆえんでもあるのですが、イメージで語られるばかりで「ワークフローはMacで統一」という現実は驚くほど知られていません。ちなみに現在ではイラストレーター、カメラマン、WEBデザイナーはMacとWinとの間のデータの互換性が高いので、その限りではありません。プロでもWinを使っている方は数多くいらっしゃいます。私はプロのグラフィックデザイナーですので、印刷入稿データを制作しますが、95%はMacデータになります(残り5%はPDF入稿)。

 この『カルトQ』では「パソコンマニア=Macユーザー」的に扱われていますが、現在のMacはブラックボックス化が進み、ハードウェアを弄る要素はほとんどなくなってしまいました。PCのカスタマイズを楽しむなら断然Winです。特にゲーミングPCという概念はMacにはありません。ですので、今の時代にこの『カルトQ』を復活させるなら「パソコンマニア=Winユーザー」という扱いになると思います。まあでも熱心なファンが存在するのはMacも同じですので、クイズになりやすいのは同じかも知れません。そうだとすると「Macintosh」や「Mac」はもう通じないので「Apple」となるでしょう。まさか「Macintosh>Apple」ではなく「Macintosh<Apple」の時代が来るなんて、この当時は想像もしていませんでした。本当に驚きますね。